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浮気や不貞行為は犯罪ではない
浮気や不倫は、現代社会では非難される行為として認識されています。一方で、「不倫は犯罪ではない」という主張もよく耳にします。本当のところはどうなのでしょうか。
浮気や不倫は、確かに、法律的には「犯罪」ではありません。犯罪とは、刑法上の刑罰が科される行為のことですが、日本には、不倫に刑罰を科す法律が存在しないからです。しかし、民法上の「不法行為」に当たる可能性があります。不法行為とは、他人の権利や法律上保護される利益を侵害する行為のことです。不倫の被害者は、不倫という不法行為によって受けた被害を、不倫をした配偶者や不倫相手に対して、慰謝料として請求することができます。
なお、不倫相手が18歳未満の未成年者の場合は、青少年保護育成条例違反で、刑罰を科される可能性があります。また、合意なく性的関係を持つに至った場合は、強制性交等の罪に当たる可能性もあります。
不貞行為とは
不貞行為とは、一般的には、婚姻関係にある者が、配偶者以外の人と性的な関係を持つことを言います。したがって、SNSやメールで連絡を取り合う、食事やデートをする、手をつなぐ、キスをするなどの行為は、不貞行為には当たりません。そこから肉体関係に発展した場合に、不貞行為になります。
また、浮気や不倫は、法律用語ではないため法的な定義はありません。当事者の価値観にも左右されますが、一般的に、恋人や配偶者以外に、恋愛感情を持ったり、交際したり、肉体関係を結んだりすることを指します。「浮気」は恋人関係にも使われるのに対し、「不倫」は一方または双方が既婚者である場合に使われます。関係が一時的・短期的か長期的か、関係性の深さや影響度合いの違いもあります。
法律上の不貞の定義とは
法律上の不貞行為とは、最高裁判例に基づき、「配偶者のある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」とされ、民法770条「裁判上の離婚」1条1項に、離婚事由として規定されています。婚姻関係にある夫婦が、第三者と性的関係を結ぶ行為は違法であり、これを「貞操義務」と言います。
ただし、婚姻関係にない者の不貞行為が裁判で認められたケースも存在します。
- 内縁関係・事実婚
内縁関係は、婚姻に準ずる関係と認められており、法的な婚姻関係と同様の扱いがなされます。内縁関係にある者が相手以外と性的関係を結んだ場合も、不貞行為とみなされます。
- 同性カップル
同性カップルの内縁関係・事実婚の場合も同様に、異性カップルと同じ権利が認められます。
- 婚約期間中
婚約期間とは、婚姻関係を結ぶことを約束した男女が婚姻する前の期間を言い、この場合も婚約者の貞操権を侵害したことになり、不貞行為として認められます。
不貞行為に対し慰謝料請求が可能
不貞行為は民法上の「不法行為」に当たり、慰謝料の請求が可能です。慰謝料としては、不貞行為そのものに対する慰謝料と、不貞行為が原因で離婚に至った場合の離婚に対する慰謝料がありますが、ここでは、前者について解説します。
不貞行為に対する慰謝料請求の法的根拠は、2つあります。
- 民法709条(不法行為による損害賠償)
ここには、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定められ、不貞行為は、不貞をされた配偶者の利益を侵害するものとされます。
- 民法710条(財産以外の損害賠償)
ここには「他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない」と定められ、不貞行為により精神的なショックを受けた、心身の病を負ったなどがこれに当たります。
慰謝料請求には、まず法律上の要件として次のことが必要です。
これを満たすことを確認した上で、不貞行為(浮気・不倫)の証拠集めを始めましょう。
①不貞行為がある
配偶者が不貞相手と性的関係を持った
②故意・過失がある
不貞相手が、不貞配偶者の婚姻を知っている、または知らなかったことに過失がある
③婚姻関係が破綻していない
不貞行為を行った時点で婚姻関係が破綻していない
④請求権の時効が成立していない
民法724条(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)により、不貞行為の事実(損害)と不貞相手(加害者)を知った時から3年が経過した、または不法行為から20年が経過した場合は、時効が成立し、慰謝料請求権が消滅する
慰謝料請求するためには
それでは、不貞行為に対する慰謝料を請求するには、具体的にどのようなことが必要なのか見て行きましょう。
- 不貞行為の証拠
まずは、不貞行為の事実を裏付ける証拠が必要です。不貞行為の要件として「性的関係があること」がありますが、通常密室で行われるものであるため、この証明はとても難しいものです。証拠として認められるケースとして、性的関係・不倫関係を示唆する写真・動画・音声、手紙・メール・LINE・SNSによるやり取り、手帳・日記・メモ書き、ホテルや旅行・食事の領収書やクレジットカードの明細書、不貞配偶者や不貞相手が不倫の事実を自白・自認している書面や録音、探偵事務所による報告書などがあります。性的関係が一度だけでも、不貞行為に当たります。
証拠がなく、相手方が性的関係はないと反論した場合は、裁判で負けてしまうことが多いですが、それでも絶対とは言い切れません。肉体関係があった場合と同様に、婚姻関係が破綻する可能性があれば不法行為に当たることを認めた判例もあります。
- 専門家の助け
不貞行為に対する慰謝料請求は、証拠収集も困難で、手続きも簡単ではありません。一般的には、弁護士や探偵など専門家の助けを借りることが多いでしょう。専門家によりできる内容、得意分野、金額、体制、考え方などが異なりますので、よく比較・検討して、自分に合った専門家を探すことがとても大切です。
- 費用
慰謝料請求の手続きには、主に次のような費用がかかります。具体的な金額は、個々の事情や依頼する専門家や内容により異なりますので、よく検討して納得した上で依頼することが大切です。
①調査・証拠収集費用
不貞行為の証拠収集は、探偵事務所に依頼することが多くなります。その場合、数日間で数十万程度の費用が必要ですが、自分で収集したり、解決を急いだりすることで、費用を抑えることも可能です。
②書類作成費用
内容証明や示談書など、書類作成を弁護士に依頼する場合は、着手金や報酬金などが必要です。
③裁判費用
裁判を起こす場合は、裁判所に支払う訴訟費用と、請求手続きを弁護士に依頼した場合の弁護士費用が必要です。訴訟費用は、請求額により変動しますが、一般的には、5千円から2万円程度になります。弁護士費用は、依頼する事務所により異なりますが、一般的には、着手金・報酬共に数十万とされています。
4.時間
慰謝料請求の手続きにはある程度の時間も必要になってきます。証拠として確実に認められる材料を収集する時間、専門家に相談する時間、書類作成に要する時間、示談や裁判に要する時間などです。
- 精神力
慰謝料請求には、相当な費用や時間がかかることもあり、長期化するにつれ、精神的にも大きな負担を強いられます。専門家だけでなく、身近な家族や友人など、精神面で支えてくれる人を見つけることも重要です。
これらのことを総合的によく検討した上で、慰謝料請求を自分で行うか、専門家に依頼するかを決定しましょう。慰謝料請求権は3年で時効が成立し消滅するため、どのような方法で手続きを進めるとしても、早めに行動を開始することが重要です。必要に応じて専門家の適切なアドバイスを受け、必要な手続きを進めましょう。
不貞行為を行ったと客観的に判断できる証拠が必要
不貞行為を直接的に証明するのは非常に困難ですが、性的関係・不倫関係を示唆すると客観的に認められる証拠を集めることは可能です。次のようなものが証拠として認められますが、できるだけ多くの種類・数の証拠を集めた方が、浮気・不倫の事実を証明しやすくなります。
- 写真・動画・音声
配偶者と浮気・不倫相手が性交渉をしている様子や、ホテルに出入りする様子を写した写真や動画、性交渉をしていると推測できる音声は、証拠として有効です。ただし、加工したものは証拠として認められにくくなりますので、注意が必要です。
方法として、自分で尾行を行ったり、メールやLINEのやり取りを保存したり、音声データを録音したり、領収書を保管したりすることが考えられます。また、探偵社に依頼して調査を行うことも一つの方法です。
一般的に不貞行為は秘密裏に行われるものであり、その証拠を掴むことは難しく、証拠収集には難易度とリスクが伴います。探偵社を利用した場合、不貞行為の証拠をつかめる可能性は格段に高まりますが、費用だけでも数十万から数百万円かかるケースもあります。しかし自分で調査を行なうと、失敗するリスクや証拠の収集方法が違法だとして、証拠が認められなかったケースもありますので、出来る事・出来ない事をしっかりと見極めて慎重に検討する必要があります。
- 手帳・日記・メモ書き
配偶者と浮気・不倫相手が、手紙・メール・LINE・SNSなど何らかの手段で連絡を取り合ったものに、性交渉をしたことを明示または示唆する内容が含まれている場合や、配偶者が書いた手帳や日記、メモ書きなども、性交渉をしたことを明示または示唆する内容が含まれていたら証拠として有効です。手帳や日記など、日付や時系列がはっきり分かるものは、証拠の補強に役立ちます。
4.領収書・クレジットカード明細書
ホテル(ラブホテルに限らず、ビジネスホテル、旅館など)、旅行(滞在先、移動手段、観光費など)、食事の領収書や、クレジットカードの明細書も、証拠として有効です。一定時間を2人きりで過ごした、または一緒に泊まったことから、性交渉をした可能性があると認められ、証拠の補強として通用します。
- 自認・自白
配偶者や浮気・不倫相手が不貞の事実を認めている場合は、それについて述べた記した文書や音声も、証拠として有効です。後から事実を否認することもよくあることですので、不貞事実を認めたら早い段階で、不貞事実を自認する旨と署名・捺印した「不貞行為の自認書」を書かせることが重要です。
- 探偵社による報告書
探偵が行った不貞の調査資料も、証拠として有効です。有効な証拠を収集し、示談や裁判で有利になる報告書を作成できる探偵社を選ぶことが大切です。
証拠の収集のためには
証拠収集には、自分で行う方法と、探偵や弁護士など専門家に依頼する方法があります。それぞれの特徴や、メリット・デメリットを見て行きましょう。
自分で証拠を集める
■特徴
自分で証拠収集を行う場合は、婚姻関係にある、同居しているというメリットを活かすことができます。
例えば、次のような方法があります。
・配偶者や不貞相手を尾行して、写真や動画を撮る
・自宅の寝室や居間に隠しカメラやボイスレコーダーを設置して、不貞行為の直接証拠を得る
・配偶者との会話を録音して、自白の証拠を押さえる
・手帳・日記・メモ書き・手紙・郵便物・領収書や明細書などの紙類をチェックして写真やコピーに残す
・パソコンやスマホのアプリ・SNS・メッセージなどをチェックして保存する
・自宅のゴミ箱や配偶者の持ち物などを調べる
浮気調査アプリ、GPS発信機、監視カメラ、ボイスレコーダーなど、調査に役立つ便利なグッズも、数千円から数万円程度でたくさん販売されています。それらを上手に活用するのも良いでしょう。ただし、設置方法や使用方法によっては、プライバシーの侵害、名誉棄損罪、住居侵入罪、器物損壊罪、窃盗罪、ストーカー規制法違反、迷惑防止条例違反などに当たる可能性があります。調査が違法行為になり、逆に罪に問われないよう、特に注意が必要です。
■メリット
・調査費用が安い
・自分の都合に合わせて調査できる
・探偵や弁護士という第三者に、家庭の事情を話す必要がない
・自分の納得できる調査方法を選べる
・自分の目で浮気・不倫を確かめられる
■デメリット
・違法行為になる可能性がある
・尾行が難しい
・有効な証拠になる写真や動画を瞬時に撮影できない
・配偶者や不貞相手、知人や友人に知られる可能性がある
・精神的ショックが大きい
探偵に依頼する
■特徴
探偵に依頼して証拠収集を行う場合は、調査のプロの力を借りることができます。
例えば、次のような流れで証拠収集が行われます。
①電話・面談などによる無料相談
②調査プランの提案、無料見積もり
③契約、前金の支払い
④依頼者から資料・情報の提供
⑤事前打ち合わせ
⑥下見調査、事前調査、本調査
⑦経過報告、中間報告
⑧最終報告
■メリット
・探偵業法の規定により、合法的に尾行や張り込みができる
・有効な証拠になる写真や動画を瞬時に撮影できる
・配偶者や不貞相手、知人や友人に知られる可能性は低い
・不貞相手の情報も判明する
・人を介するため、精神的ショックが和らぐ
■デメリット
・どの探偵社に依頼すればいいか判断するのが難しい
・調査費用が高い
・調査に時間がかかる場合がある
・探偵からの報告を受けるまで、状況が把握できない場合もある
集めた証拠を元に示談や裁判を行う
収集した証拠で慰謝料請求ができると判断したら、具体的な請求手続きの準備をしましょう。請求の方法には、示談、調停、裁判(訴訟)の3段階があります。
- 示談
不貞行為の証拠を提示して、配偶者や不貞相手と話し合い、慰謝料や離婚などの条件について、合意に至る方法です。合意が得られたら、示談書を作成し、双方で署名・捺印します。示談書には、慰謝料の金額、支払い方法や期限など、具体的に明記します。合意に至る容易さにより掛かる時間は異なります。また、当事者間の直接的な話し合いのため、費用はほとんどかかりません。弁護士や司法書士など専門家に依頼する場合は、適切な示談書の作成や、適切な示談条件の交渉代行をしてもらうことも可能です。
- 調停
示談で合意に至らなかった場合に、不貞行為の証拠を提出し、調停申立書を作成して、家庭裁判所に調停の申し立てをする方法です。不貞行為の被害者(申立人)と加害者(被申立人)が裁判所に出廷し、面接することが必要で、数ヶ月から1年程度の時間がかかります。また、調停申立料と弁護士費用が掛かります。
3.裁判(訴訟)
示談や調停で合意に至らなかった場合や、配偶者が不貞行為を認めない場合などに、不貞行為の証拠を準備し、訴状を作成して地方裁判所または簡易裁判所に提出し、裁判所の審理を受ける方法です。不貞行為の被害者(原告)と被告(被申立人)が裁判所に出廷し、裁判所での審理を受けることが必要で、1年以上の時間がかかります。また、訴訟費用と弁護士費用が掛かります。弁護士など専門家に依頼する場合は、適切な証拠の提出、書類作成や裁判代行をしてもらうことも可能です。
なお、裁判を行う裁判所は、通常、被告(不貞行為を行った配偶者)の住所地を管轄する裁判所ですが、特段の事情がある場合は、他を選択することも可能です。
まとめ
浮気や不倫、不貞行為の定義、慰謝料請求の法的根拠と要件、慰謝料請求に必要な準備、証拠の種類とその収集方法について、具体的に詳しく解説しました。
配偶者の不貞行為を疑ったり、把握している場合、精神的な動揺も大きく、なかなかその事実を自分で認めることも、誰かに相談することも難しい状況になる方が多いです。しかし、不貞行為に対する慰謝料請求権には3年という時効があります。証拠収集にもある程度の時間がかかります。自分でできる調査にせよ、専門家への無料相談にせよ、泣き寝入りを避けるためにも、できる限り早く行動を開始することをお勧めします。