
浮気調査を行なう際にGPSを活用することは、つい最近まで当たり前でした。
インターネットで情報が簡単に入手できる現在では、浮気調査を自分で行うためのマニュアルや、GPS調査を謳う探偵社のHPなどから、GPSを使った浮気調査の方法を調べた人もいるでしょう。実際にプロの探偵以外でも、自分でパートナーの車にGPSを付けて行動を監視している人は存在します。
しかし、最近ではGPS浮気調査が問題となるケースが増え、裁判で違法性が問われるということや、逮捕者が出た事案もあります。そこでこの記事では、GPSを使用した浮気調査が違法になるケースや、なぜそれでもGPSを使い続けるのかを解説します。
浮気調査をご依頼される方にとって、必要とされる調査方法は何なのかを判断する材料にもなりますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
GPS調査は違法なのか?
結論から言うと、GPS調査は違法です。その根拠として以下の行為が禁じられています。
・相手方の承諾なく、相手方の位置情報記録・送信装置(GPS機器等)の位置情報を取得する行為
・相手方の承諾なく、相手方の所持する物に位置情報記録・送信装置(GPS機器等)の位置情報を取り付ける行為
上記が新たに規制対象になり、これらの行為の規制は令和3年8月26日より施行されています。
GPS調査を行なう場合、「機器の設置」と「情報の取得」という2つの行為があり、相手の承諾なしにこれらの行為を行うことが違法とされています。ただし例外的に違法とならないケースもありますので、まずはそちらからご紹介します。
GPS機器の設置が違法とならないケース
・GPSを設置したのが自分の車両の場合
・GPSを設置する車両の所有者が許可した場合
・GPSを設置したのがパートナーと共有車両の場合
基本的にはGPSを無断で設置することが違法となります。自分の車と所有者が許可した場合は全く問題無いとなりますが、共有車両の場合は、厳密にいえば所有権や相手への許可の有無が判断の微妙なところです。
GPSの位置情報取得が違法とならないケース
・相手が許可した場合のみ
設置した機器の位置を無断で取得することが違法とされています。なので、たとえ所有者や共有者が設置は認めていても、位置の取得はNGだと言えば違法とされるのです。このことから考えると、GPS調査は「相手が自分の調査をすることを許可した場合のみ可能」となり事実上は、浮気調査としての意味を成さないと結論づけられます。
夫婦間なら問題ないとの考えは?
「とは言っても夫婦間なら問題ないでしょ?」という考えはよく聞きますし、探偵社によっては「夫婦間はOK」と考えているケースがあります。しかし、正確には「現状は問題になっていないケースが多いだけ」が正解であり、それも近年は実際に問題になってきています。
そもそも何故GPSを使用するのか?
GPS機器を設置するために、他人の敷地内ガレージに立ち入ったりすると、刑法第130条の住居侵入罪、または建造物侵入罪の対象になる可能性があります。また、設置の際に車の一部を破損させるなどの行為があれば、刑法第261条の「器物損壊罪」が成立します。
そしてもし安全にGPS機器が設置できる環境があったとしても、これだけ情報が容易に収集できる現在では、浮気調査にGPSが使われていることは周知の事実に近い状態です。中にはGPSの設置方法や、車の腹下(下側)の、どの部分に設置するのかを写真付きで紹介しているサイトなどもあります。
もしかしたら浮気調査をされているかもしれない、探偵に尾行されていないか、と考えた人が、GPSを付けられているかを確認する術があるという訳です。実際にGPSが設置されている事に気が付いて回収されたり、警察に届けられたということも決して珍しいことではありません。
ただ単に今まではそれを取り締まる明確な法律が存在しなかったこともあり、グレーゾーンという判断で見逃されていたというのが事実なのです。いわば「機器の設置」と「情報の取得」が令和3年8月26日に禁止される以前から、GPSの使用には様々なリスクがつきものだったと言えます。
では何故そんなリスクがありながらも、GPS調査を行なうのでしょうか?ここからは、その理由について見ていきましょう。
調査が楽になる
まず第一に調査が楽になるというメリットがあります。あくまで調査対象者が車で移動する場合に限っての話ですが、GPSさえ付けておけば仮に尾行に失敗しても、位置情報から再度車を探し出し捕捉することが可能となります。
つまり尾行のやり直しがきくということです。見失ってどこに行ったのかが分からなくなり、それ以上の調査が不可能な事態に陥ることはありません。
人件費がかからない
通常なら人数が必要な調査も、GPSを付けることによって人員の削減が可能となります。車の動きを確認するだけなら現地に行く必要もない場合もあり、張り込みや待機の作業も必要ありません。人件費の削減を最も大きなメリットと考えるケースは多いでしょう。
技術が必要ない
尾行技術が無い探偵にもGPSは重宝されます。GPS調査を売りにする場合は尾行する必要が無いからです。
GPS浮気調査の場合では、ラブホテルに入ったのをGPSで確認して、出てくるところだけを撮影して終了というケースが多く見られます。そんな証拠で通用するのか?という説明は後項で行っていますのでご確認ください。
バレなければ構わないという考え
上記のような理由に加え、そもそもバレなければ問題にならないと考えているケースがあります。
現在でもGPSを使用している大多数がこの考えからだと思いますが、それもひと昔前のグレーゾーン時代だから通用したのでしょう。仮にバレても見逃されてきたかもしれません。しかし今後はその考え方では難しくなってくるでしょう。
GPS調査で確実な浮気の証拠が掴めるのか?
ここまでGPS調査のリスクや、何故リスクを承知で使い続けるのかを解説しました。そしてGPSを使用することに、ある一定のメリットがあることも分かりました。
しかし、そのメリットはデメリットになることもあります。確かに人件費が削減されることによって調査料金を安くできるということに繋がるかもしれません。ただし技術を必要としない調査はクオリティーが下がりますし、証拠という部分で確実と言えなくなる可能性があるのです。
ここからはGPS調査で証拠が不十分だった事例をご紹介します。
事例1 駐車している車の写真しか無く人物が映っていない
GPS調査でよくある状況がこちらです。このケースで考えられるのは、探偵はGPSの位置情報を取得した後で現地に向かうので、到着した際に人物は既に降車しておりそこからの行動は分かりません。当然調査報告書には駐車している車の写真ばかりが記載されることになります。
このような場合に証拠不十分となるケース
・例えホテルに車が駐車されていたとしても誰が乗っていたのかは証明されない
・ホテルから出た写真のみがあってもいつ入ったかは証明されない
事例2 駐車した車にいつまでも戻ってこない
こちらのケースは最悪です。探偵がGPSの位置情報を取得した後で現地に向かうので、到着した際に人物は既に降車しており、そこからの行動が分からないのは事例1と同じですが、その後も車に戻ってこないという状態です。
このような場合に考えられるケース
・浮気相手の家が付近にあり宿泊している
・浮気相手の車に乗り出掛けている
いかがでしょうか、事例1.2ともに、証拠として不十分となる可能性が高いのは勿論ですが、いつ戻ってくるか分からないケースで、時間だけが経過して調査料金が加算されるのは避けたいところです。もしかしたら1晩経って、浮気相手の家から本人が1人で戻ってきて、何の証拠にもならない可能性も十分に考えられるからです。
GPS調査はお客様の為になるものではない
ハッキリ言います。GPS調査は探偵側に都合の良いシステムでお客様の為になるものではありません。
普通に考えてお客様側からしたらGPSを使用しなくても証拠が取れていれば何の問題も無いのです。もしGPSを使う事で料金が割安になるのであればメリットとも考えられますが、仮に安く済んでも証拠が不十分で裁判に勝てなければ意味がありません。
GPS調査に慣れた探偵の技術の低下
GPSが無いと満足に尾行が出来ない探偵が増えています。機材が進化して便利な時代になりましたが、ひと昔前はGPSが無いのが普通でした。業界用語でGPS無しの尾行を「ガチ追い」とも呼びます。一流の探偵は常にガチで緊張感をもって尾行をするものです。
常日頃からGPS調査をしていて、いざガチ追いとなった際に都合よく成功するほど尾行は簡単ではありません。よく「保険の為にGPSは使うもので実際に尾行は出来ている」という探偵がいますが、そういう探偵は調査の発覚やGPS設置そのものが発覚するリスクがあります。
ここでは詳しくお伝え出来ませんが、GPSとガチ追いの併用は実は機器の発覚リスクが一番高いと考えられています。それは常にガチ追いをしている探偵だけが持つ感覚です。
まとめ
離婚訴訟において、GPS調査の位置情報の履歴を証拠として提出した弁護士が「弁護士職務基本規程第14条に違反し、弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する」として、懲戒処分された事例があります。
また、最高裁はGPSを使用した操作を強制処分と判断し令状が必要としました。
裁判要旨
車両に使用者らの承諾なく秘かにGPS端末を取り付けて位置情報を検索し把握する刑事手続上の捜査であるGPS捜査は,個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって,合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であり,令状がなければ行うことができない強制の処分である。
上記は刑事捜査においての判決ですが、民事裁判における不貞行為の立証の為であっても、今後は弁護士もGPS調査によって得られた証拠を採用しなくなるかもしれません。