裁判所から「特別送達」と書かれた郵便物が届いたら、その中には大事な書類が入っています。しかし特別送達を受け取らず、不在連絡票を無視し続けたら、どのような結果になるのでしょうか?
今回の記事では特別送達と、その後に使われる可能性がある付郵便(ふゆうびん)送達について解説します。
目次
特別送達という耳慣れない郵便
訴状や支払督促申立書、債権差押命令といった裁判所からの重要書類は、当事者へ確実に届くことが求められます。そのため、裁判所はレターパックや書留などの一般的な方法ではなく、特別送達と呼ばれる手段で発送しなければなりません。
本項では、特別送達の特徴と受取拒否ができるかどうかについて見ていきます。
特別送達とは
裁判所からの重要な書類は、当事者に届いて初めて効力を発揮します。そして、書類を確実に届けるために使われる郵便方式が、送付と受取の記録を確実に残せる「特別送達」です。
送付と受取の記録は書留などでも残せますが、これは誰にでも利用できるサービスです。特別送達は法的な性質を持つ特殊な郵便方式であり、裁判所や特許庁など限られた機関しか使うことができません。
特別送達の特徴
特別送達は、必ず郵便局員から手渡しされます。受取人の在宅時はもちろん、もし不在だった場合でも、郵便受けに入れられることはありません。また特別送達の封筒には、一般的な郵便物とは異なる特徴があります。
特別送達の封筒には裁判所名や連絡先が記載され、裏面には「郵便送達報告書」という細長い用紙がついています。郵便配達員はこの報告書に受領者の署名や押印をもらい、記録として持ち帰る仕組みです。
また、特別送達には通常の郵便より高額な切手が貼られており、定形郵便であっても1,000円を超えます(基本料金に書留料金480円+特別送達料金630円が加算されているため)。
特別送達を装った架空請求にご用心
悪質な詐欺グループが特別送達を装った郵便物を利用し、金銭を騙し取ろうとするケースが報告されています。
様々な手口があるようですが、ここではその一例をご紹介します。
出来事 | 実態 |
---|---|
〈共通〉 「特別送達」と書かれた封書が郵便受けに届いた。差出人は裁判所 |
特別送達は手渡し。郵便受けに届くことはない |
〈ケース1〉 偽の書類に訴訟を起こされた旨と、取り下げを求める際の電話番号が書かれている |
裁判所ではなく詐欺グループにつながる電話番号。電話をかけてくる人を狙っている |
〈ケース2〉 偽の書類に、身に覚えのない未納料金を振り込むよう書かれている |
偽の請求先にお金を振り込ませようとしている |
〈ケース3〉 偽の書類に「○○のため、この電話番号にご連絡ください」などと書かれている |
裁判所ではなく詐欺グループにつながる電話番号。電話をかけてくる人を狙っている |
偽物と思われる特別送達が届いたり、真贋が見極められなかったりしても、放置は禁物です。
消費者庁の「消費者ホットライン」、または居住地の「消費生活センター」へ相談することをおすすめします。
特別送達を受取拒否したら
郵便配達員が特別送達を配達に来ても「届かなかったことにすればいい」と、受取拒否を考える人がいるかもしれません。しかし、受け取らなければ次のような措置が取られるため、特別送達を拒否することは不可能です。
差置送達
もしも配達された特別送達を受け取らず、封筒の裏面の「郵便送達報告書」に捺印や署名もしなかったとしましょう。その場合、郵便配達員は特別送達をその場に置いていくことで、送達(配達)を完了させることができます。これを「差置送達」といいます。
郵便配達員は差置送達をした際、郵便送達報告書にその旨を記載して裁判所に戻します。それが正式な記録となるため、後になって「置いていかなかった」としらを切ることもできません。
夜間休日送達・就業先送達
特別送達の配達が来たとき、受取人が留守(あるいは居留守)だった場合、送達は不成立となります。郵便配達員は不在連絡票を郵便受けに投函し、特別送達を郵便局に持ち帰ります。なお、不在連絡票に記載される差出人は管轄の裁判所です。
持ち帰った特別送達が郵便局で保管されるのは1週間です。その間に受取人から連絡がなければ、夜間休日の再送達や就業先へ送達するなどの処置が取られます。
補充送達
基本的に、特別送達は受取人本人に届けられるものです。しかし本人が不在でも、そこに「相当のわきまえがあると認められる者」がいれば、郵便配達員は特別送達を預けることができます。これを「補充送達」といいます。
相当のわきまえがあると認められる者とは、自宅であれば同居家族、就業先であれば従業員などです。この場合、郵便送達報告書には受け取った人が署名や押印をします。
特別送達より怖い付郵便送達
受取人が郵便局へ再送達の依頼をしない、就業先へ送ることができないなど、特別送達がなかなか届かないことがあります。そのような場合には「付郵便送達」という措置が取られます。
本項では、付郵便送達について解説していきます。
付郵便送達とは
付郵便送達とは、発送をもって送達完了(相手が受け取った)とみなされる郵便方式です。受取人が知らないと言い張ったり、あるいは本当に受け取っていなかったりしても聞き入れられません。
なお、付郵便送達を利用できるのは、受取人の居住地が明確なときです。夜逃げなどで行方不明であれば「公示送達」という手段が取られます。これは管轄する裁判所の掲示板に、受取人が特定できる情報を2週間掲示し、期間の満了をもって送達完了とする方法です。
付郵便送達を無視したら
付郵便送達が来ても開封せず、何もしないでいると、そのまま法的手続きが終了してしまいます。
書類の内容が裁判の訴状であれば、裁判所の呼出状や答弁書の書き方などが同封されています。しかし被告である受取人が答弁書を提出せず、呼出状の期日に裁判所へ行かなければ、そのまま自動的に敗訴となる可能性が高いです。
また支払督促申立書なら、債務者である受取人には「異議申し立て」の権利があります。しかし、これができるのは送達完了から2週間だけです。この間に受取人が何もしなければ、いつでも財産を差し押さえられる状態になります。
書類の内容によっては、弁護士や司法書士への相談が必要なこともあるでしょう。いずれにせよ法的手続きは実行されますので、特別送達の段階で速やかに受け取り、最適な対応をすることが大切です。
特別送達より厳格な付郵便送達
付郵便送達は、郵便局の不在連絡票に対して連絡が来ない、という段階では使われません。まずは夜間休日や就業先への送達などを行い、それでも受け取らないと判断された場合のみ、付郵便送達が選択されます。なお、特別に認められた場合を除き、就業先へ付郵便送達を送ることはできません。
前項で解説したように、付郵便送達を利用できるのは受取人の居住地が明確な場合です。そのため付郵便送達をする際は、所定の調査をして、受取人がそこにいることを確認しなければなりません。さらに調査内容を「住居所調査報告書」にまとめて、裁判所へ提出する必要があります。
住居所調査報告書に記載する内容は以下の通りです。
調査日時 | |
調査場所 | |
調査内容 |
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また、前出の公示送達をする際も調査が必要です。こちらは付郵便送達とは逆に、受取人がその住所にいないことを確認します。
特別送達と一線を画す付郵便送達の調査
住居所調査報告書に調査内容を記載するには、現地調査が欠かせません。この調査は口で言うほど簡単ではなく、調査のノウハウがなければ困難です。実際のところ、付郵便送達の現地調査は、探偵会社などの専門家が依頼を受けて行うことが多いものです。
本項では、付郵便送達の現地調査がどのように行われるのかを解説します。
家屋の確認
まずは実際に受取人の住居所を訪ね、表札が受取人と同じか、郵便受けに入っているものがあるかなどを確認します。受取人が車を所有していれば、ナンバーなどの車両情報も手掛かりになります。
受取人が共同住宅で暮らしているケースでは、調査の難易度が上がってしまいます。現代のマンションはセキュリティ対策が施されており、入口はほぼオートロックです。郵便受けは個別に鍵がかけられて、中身が見えないことも珍しくありません。
また、受取人が他人の家に同居している場合、表札や郵便受けには家主の名前しか表示されていないことがほとんどです。このような場合も調査の難易度が高くなります。
生活感の確認
家屋の様子だけでなく、生活している気配があるかどうかも調査の対象です。例えば回転式の電気メーターを調べて、動いていることが確認できれば、部屋で電気が使われていると判断できます。また郵便受けに郵便物が届いていれば、いつ誰に宛てて投函された手紙なのかが分かります。
外からベランダの様子を観察するのも有効な手段です。昼間なら窓の開閉、夜なら電気の点灯で、誰かが在宅していることを確認できます。タイミングが良ければ、本人がベランダに出てくることもあるでしょう。ただし高層マンションや目隠しを設置しているなど、ベランダを観察できない家屋が多いのも実状です。
もし受取人本人と思われる人物に遭遇すれば、尾行して就業先などを突き止められる可能性があります。ただし尾行は危険を伴う行為であり、プロの探偵でなければ難しい調査方法です。
面接(聞き込み)
現地調査の面接とは、受取人の日常の様子や事情を知っていると思われる人への聞き込み調査です。探偵は聞き込みができる相手を探し、話を聞いて、その内容を「住居所調査報告書」にまとめます。その報告書が裁判所に提出され、居住していると認められて初めて、付郵便送達の送付が可能になります。
聞き込みの対象は隣人、所轄の郵便配達員など、住居の様子を知る可能性がある人たちです。賃貸住宅であれば大家や管理人、管理会社の担当者も対象になります。もちろん本人や配偶者から話を聞ければベストですが、しらを切られたり、逆上して攻撃されたりすることもあるので注意が必要です。
聞き込みは難易度が高い調査であり、技術と経験が求められます。個人情報保護法やプライバシー保護法、対象者の報復が怖いなどの様々な理由から、話すことを拒む人もいます。また普段から隣近所の交流がなく、隣人の顔を見たことがないという人も多いです。地方でも例外ではなく、特に集合住宅や新興住宅地で暮らしている人は、隣人の家族構成を知らなくても不思議ではありません。
付郵便送達の現地調査と探偵社
業務遂行の過程で、付郵便送達に関わる機会が最も多い職業は弁護士です。実際のところ、付郵便送達の現地調査は、大多数が法律事務所から探偵社など調査のプロへ依頼されています。
※もちろん、一般の方が調査を依頼することも可能です。
依頼を受けた探偵社は、通常であれば数時間の現地調査を行い、住居所調査報告書を作成します。調査時間が短いと感じるかもしれませんが、探偵は次のような知識と技術を持っているため、効率的な調査が可能です。
- 裁判所書記官が何を必要としているのか心得ている
- 聞き取りの経験が豊富で、相手や状況に応じて調査の手法を変えられる
- 電気メーターやガスメーターの確認方法を熟知している
- 住居侵入罪や建物侵入罪などに問われない、合法的な調査方法を知っている
- 必要に応じて尾行や張り込みなどの調査を追加できる
まとめ
今回の記事では、特別送達の特徴から受け取らなかった場合の措置、付郵便送達の現地調査まで解説しました。
特別送達は、裁判所の重要書類を確実に届けるための郵便方式です。受取拒否や居留守を使っても、最終的に付郵便送達にて送達完了と扱われてしまいます。そして付郵便送達の際は、プロの技術と経験を持つ探偵社が居住を確認しますので、偽ることは不可能です。
もしも特別送達が届いたら、その場で受け取って適切に対応しましょう。少しでも疑問を感じたら、消費者庁の「消費者ホットライン」や居住地の「消費生活センター」へ相談するのも賢い選択です。
裁判所から書類が来たと慌てず、冷静に行動することが解決への糸口になります。