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嫌がらせによる精神的苦痛の慰謝料請求|相場・証拠・手続きを解説

嫌がらせによる精神的苦痛の慰謝料請求に悩む方は、年々増加しています。2021年度の個別労働紛争の相談件数では、「いじめ・嫌がらせ」が最多の86,034件(24.4%)を占めました。また、SNSでの誹謗中傷や近隣トラブルなど、職場以外での嫌がらせも深刻な社会問題となっています。

本記事では、嫌がらせによる精神的苦痛の慰謝料請求について、具体的な相場から必要な証拠、手続きの方法まで、実践的な情報を解説します。泣き寝入りせずに、法的な解決を目指しましょう。

目次

嫌がらせによる精神的苦痛とは

嫌がらせによる精神的苦痛は、法律上保護される重要な権利侵害として認識されています。本章では、どのような状態が精神的苦痛として認められ、法的保護の対象となるのかを具体的に解説していきます。

精神的苦痛が認められるケース

精神的苦痛とは、心情面で過度にストレスを感じている状態を指します。法律上認められる精神的苦痛には、様々な形態があります。不眠やめまい、吐き気などの身体症状として現れることもあれば、不安感や抑うつ状態などの精神症状として現れることもあります。

深刻なケースでは、適応障害やうつ病などの精神疾患の診断を受けることもあります。これらの症状により、仕事や学業に支障が出たり、人間関係が損なわれたり、通常の日常生活が送れなくなったりすることも少なくありません。

医療機関で診断を受けることは、精神的苦痛の程度を客観的に示す重要な証拠となります。症状が軽いと感じる場合でも、記録として残しておくことをお勧めします。

法律上の「嫌がらせ」の定義

民法709条では、故意または過失により他人の権利や法律上保護される利益を侵害する行為を「不法行為」と定めています。嫌がらせ行為の多くは、この不法行為に該当します。

ただし、些細な不快感や日常生活で通常甘受すべき程度の精神的苦痛は、慰謝料請求の対象とはなりません。法的な保護に値する精神的苦痛かどうかは、社会通念に照らして判断されます。

また、2022年の法改正により、侮辱罪の法定刑が引き上げられるなど、嫌がらせに対する法的な規制は強化される傾向にあります。SNS上での誹謗中傷なども、より厳しく対処されるようになってきています。

慰謝料請求が可能な行為の具体例

職場でのハラスメントは、最も一般的な嫌がらせの形態の一つです。パワーハラスメントでは、過大な要求や人間関係からの切り離し、セクシャルハラスメントでは、性的な言動による精神的苦痛が問題となります。また、妊娠・出産・育児を理由とする不利益な取り扱い(マタニティハラスメント)も、重要な問題として認識されています。

SNSやインターネット上での誹謗中傷も深刻な問題です。匿名での中傷や、個人情報の無断公開、事実無根の噂の拡散など、一度発信された情報は急速に拡散し、取り返しのつかない被害をもたらすことがあります。

近隣住民による嫌がらせでは、騒音や悪臭などの生活妨害、執拗な監視や付きまとい、ゴミの投棄などが問題となります。これらの行為が継続的に行われることで、住居の平穏が害され、重大な精神的苦痛が生じることがあります。

2. 慰謝料請求に必要な3つの要件

嫌がらせによる精神的苦痛の慰謝料請求が認められるためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。それぞれの要件について、具体的な事例や判例を交えながら解説していきます。

不法行為の存在

不法行為として認められるためには、相手の行為が社会通念上許される限度を超えていることが必要です。

例えば、上司による業務上の指導であっても、人格を否定するような暴言を伴う場合は不法行為となります。また、正当な権利行使を装った嫌がらせ(深夜まで続く大音量での音楽演奏など)も、権利の濫用として不法行為となる可能性があります。

因果関係の証明

嫌がらせ行為と精神的苦痛との間の因果関係は、医師の診断書が重要な証拠となります。特に、嫌がらせ開始後に症状が出現したことや、症状と嫌がらせの関連性について医師の所見があれば、因果関係の証明として有効です。

また、カウンセリングの記録や服薬履歴なども重要な証拠となります。

具体的な損害の発生

精神的苦痛による具体的な損害には、治療費などの実費的損害だけでなく、休業による収入減少なども含まれます。さらに、転居費用や防犯カメラの設置費用など、嫌がらせを避けるために必要となった費用も損害として認められる可能性があります。

3. 慰謝料の相場と具体的事例

嫌がらせによる精神的苦痛の慰謝料額は、実際の判例を見ると一定の相場観が形成されています。ここでは、具体的な判例を基に、どのような場合にどの程度の慰謝料が認められるのか、その判断基準とともに解説していきます。

一般的な相場(50万円〜300万円)の根拠

慰謝料額は、被害の継続期間、態様、結果の重大性などを総合的に考慮して決定されます。特に、以下の要因が金額に大きく影響します。

  • 嫌がらせの継続期間:長期化するほど高額に
  • 行為の悪質性:故意や計画性が認められる場合は高額に
  • 被害の重大性:退職や転居を余儀なくされた場合は高額に
  • 加害者の属性:社会的地位や資力も考慮される

具体的な判例の紹介

【組織的嫌がらせ事例(500万円)】

社会福祉法人の職員が、職員会議の場で同僚らにより組織ぐるみで誹謗・非難されました。その結果、心因反応やPTSDを発症。裁判所は、正当な言論活動の範囲を逸脱し、違法に人格権を侵害したとして、慰謝料500万円の支払いを命じました(名古屋地判 平17.4.27)。

【継続的嫌がらせ事例(350万円)】

職場で上官から「お前は失格だ」などの誹謗中傷を継続的に受けた被害者が精神疾患を発症。裁判所は、指導の域を超えた違法な言動であり、心理的負荷を過度に蓄積させるものだったとして、慰謝料350万円を認定しました(福岡高判 平20.8.25)。

【職場での嫌がらせ事例(80万円)】

被害者は3年近くにわたり職場での嫌がらせを受け、精神疾患を発症。裁判所は、会社が嫌がらせを認識可能であったにもかかわらず防止措置を取らなかったとして、安全配慮義務違反を認定し、慰謝料80万円を命じました(さいたま地判 平16.9.24)。

引用:厚生労働省「職場のいじめ・嫌がらせに関連すると考えられる裁判例」

慰謝料額の算定基準

裁判所は以下の要素を総合的に判断して慰謝料額を決定します。

【被害の態様】

  • 継続期間と頻度
  • 行為の悪質性
  • 被害の回復可能性

【被害者側の事情】

  • 精神的苦痛の程度
  • 日常生活への影響
  • 休職・退職の有無

【加害者側の事情】

  • 反省や謝罪の有無
  • 組織としての対応
  • 再発防止への取り組み

4. 慰謝料請求の手順と証拠収集

慰謝料請求を成功に導くためには、適切な証拠の収集と手続きの理解が不可欠です。本章では、有効な証拠の種類とその集め方から、具体的な請求手続きまでを、実践的な視点で解説していきます。

有効な証拠とその集め方

慰謝料請求を成功させるためには、適切な証拠収集が不可欠です。最も重要なのは医師の診断書と通院記録です。具体的な診断名、通院期間、処方された薬、今後の治療見込みなどが記載された診断書は、精神的苦痛の立証に大きな効果を持ちます。

医療機関での記録以外にも、以下のような証拠が有効です。嫌がらせの内容を記録した写真や動画、メールやSNSのスクリーンショット、防犯カメラの映像、騒音計の記録などです。第三者の証言も重要な証拠となります。近隣住民や同僚など、実際に嫌がらせを目撃した人の証言は、客観的な証拠として高い価値を持ちます。

また、被害者自身による記録も重要です。日々の出来事を日記やメモとして残しておくことで、嫌がらせの頻度や内容、それによる精神的苦痛の程度を示す補助的な証拠となります。記録する際は、日時、場所、内容、目撃者の有無などをできるだけ具体的に記載しましょう。

証拠収集時の注意点

証拠収集は必ず適法な方法で行う必要があります。無断での録音や盗撮、私有地への無断立ち入りなどは、それ自体が違法行為となる可能性があります。相手のプライバシーを侵害するような方法での証拠収集も避けるべきです。

SNSの投稿をスクリーンショットで保存する場合は、投稿日時や投稿者の情報も含めて保存することが重要です。また、オリジナルデータの保存と、内容が改変されていないことを証明できる形での保存が必要です。

証拠収集が困難な場合は、探偵への依頼も有効な選択肢となります。特に、近隣トラブルやストーカー行為など、被害者自身による証拠収集が危険を伴う場合、探偵による専門的な調査が有効です。探偵は法的に有効な証拠収集の方法を熟知しており、裁判でも認められる形での証拠確保が可能です。

具体的な請求手続き

慰謝料請求の手続きは、一般的に以下の流れで進みます。

1.内容証明郵便の送付

まず、内容証明郵便で相手に請求を通知します。内容証明郵便には以下の内容を明確に記載します。

  • 嫌がらせ行為の具体的な内容と日時
  • それによって被った精神的苦痛の内容
  • 要求する慰謝料の金額とその根拠
  • 支払期限 、支払い方法
  • 期限までに支払いがない場合の対応

内容証明郵便の作成は、できれば弁護士に依頼することをお勧めします。
法的な観点から適切な内容と表現で作成することで、より効果的な請求が可能になります。

2.相手方との交渉

内容証明郵便に対する相手方の反応により、その後の対応を検討します。誠実な対応があれば示談交渉を進め、反応がない場合や誠実な対応が見られない場合は、調停や訴訟を検討します。

3.調停申立てまたは訴訟提起

調停を申し立てる場合は、簡易裁判所または地方裁判所に申立てを行います。
申立手数料は数千円程度です。訴訟を提起する場合は、訴状の作成と提出が必要です。訴訟費用は請求額に応じて異なりますが、印紙代として数万円が必要です。

示談・調停・訴訟の選択

慰謝料請求の解決方法には、示談・調停・訴訟の3つの選択肢があります。それぞれに特徴があり、事案の内容や相手方との関係性、解決までの期間や費用など、様々な要素を考慮して最適な方法を選択する必要があります。

【示談のメリット・デメリット】

メリット
  • 費用が安く済む
  • 早期解決が可能
  • 柔軟な解決が可能
  • 人間関係を維持しやすい
デメリット
  • 強制力がない
  • 相手の誠意に依存
  • 適正な解決が難しいこともある

【調停のメリット・デメリット】

メリット
  • 専門家が間に入る
  • 比較的費用が安い
  • 柔軟な解決が可能
  • 成立すれば調停調書による強制執行が可能
デメリット
  • 相手の出席が必要
  • 不成立の可能性
  • 時間がかかることもある

【訴訟のメリット・デメリット】

メリット
  • 強制執行が可能
  • 法的な解決が図れる
  • 判例として残る
デメリット
  • 費用が高額
  • 時間がかかる
  • 手続きが複雑
  • 人間関係が悪化する可能性

5. 解決に向けた具体的な流れ

嫌がらせによる精神的苦痛の問題を解決するためには、専門家への適切な相談と具体的な費用・期間の理解が重要です。ここでは、解決に向けた実務的な流れについて、具体的な数字を交えながら解説します。

専門家への相談のタイミング

証拠が一定程度集まった段階で、まずは弁護士への相談をお勧めします。多くの弁護士は初回相談を無料または低額で受け付けています。この段階で、証拠の有効性や勝訴の可能性、想定される賠償額について、専門家の意見を聞くことができます。

弁護士への相談は、できるだけ早い段階で行うことをお勧めします。嫌がらせが継続している場合、適切な対応により被害の拡大を防ぐことができます。また、証拠収集の方法についても、専門家のアドバイスを得ることで、より効果的な収集が可能になります。

費用の目安

慰謝料請求に必要な費用は、解決方法によって大きく異なります。以下に主な費用の目安を示します。

【弁護士費用】

  • 初回相談料:無料〜5,000円程度
  • 着手金:20万円〜30万円程度
  • 成功報酬:獲得した慰謝料の10%〜20%程度

【調停費用】

  • 申立手数料:数千円
  • 切手代:数百円
  • 弁護士委任の場合は別途弁護士費用

【訴訟費用】

  • 印紙代:請求額により異なる(例:100万円の請求で5万円程度)
  • 切手代:数千円
  • 弁護士費用:着手金と成功報酬
  • その他の実費(交通費、証拠収集費用など)

解決までの期間

解決までの期間は、事案の複雑さや相手方の対応により大きく異なります。

【示談の場合】

  • 最短1〜2ヶ月
  • 標準的には3〜6ヶ月程度
  • 相手の対応次第で長期化することも

【調停の場合】

  • 申立てから第1回期日まで:2〜3週間
  • 調停成立まで:3〜6ヶ月程度
  • 月1回程度の期日を重ねる

【訴訟の場合】

  • 提訴から第1回期日まで:1〜2ヶ月
  • 判決まで:1年前後
  • 控訴された場合はさらに期間を要する

6. まとめ:泣き寝入りしないための対策

これまでの内容を踏まえ、嫌がらせ問題の解決に向けた具体的な行動指針を整理します。一人で悩まず、適切な支援を受けながら解決を目指しましょう。

早期対応のポイント

被害が長期化するほど精神的苦痛は深刻化し、立証も困難になります。被害の初期段階からの記録と医療機関の受診、そして信頼できる人への相談が重要です。第三者の証言は、後の法的手続きでも有効な証拠となります。

各種相談窓口の案内

  • 法テラス(日本司法支援センター) 全国共通ダイヤル:0570-078374で、法的トラブルの解決に関する情報提供や無料法律相談を実施しています。
  • 弁護士会/労働局総合労働相談コーナー/警察の相談窓口 案件の内容に応じて、専門の相談窓口を活用しましょう。多くの窓口で初回相談は無料または低額で利用できます。

最後に押さえるべきポイント

慰謝料請求の成功には、早期の証拠収集、専門家への相談、そして諦めない姿勢が重要です。必要な支援は必ずありますので、本記事を参考に、まずは一歩を踏み出してください。

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